『夏の庭』湯本 香樹実

■2011年2月9日頃に読んだ本


◎『夏の流れ』丸山健二   70/100点
三島由紀夫が賞賛したと聞いていたが、芥川賞の選評では必ずしもベタ褒めではなかった。


どの程度の取材をしたのか分からないが、下記のような細部のリアルさが、どうして描けたのか不思議だった。
〈囚人は頭を腹に隠し、擦り切れて織目の浮き出た毛布にくるまっていた。〉


・また、こんな描写があった。最後に死刑を執行される囚人が、知り合いの名前を叫ぶのだけれど、必ずフルネームで叫ぶのだと。 なぜだかわならないけれど、そうなのだと。


「休暇」という映画を思い出した。吉村昭の「休暇」が原作。
ところで、日本の死刑制度なのになぜ牧師なのか。お坊さんではないことを不思議だ。

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◎『夏の庭―The Friends』湯本 香樹実  76/100点
○出だしが好き:
〈六月に入ってから、雨ばかり降っている。今日もしつこい雨。プール開きは明日に延期された。 〉


→短い文章をいくつか重ねて、小説を始めている。そのような始まり方は珍しい気がした。そんなことはないのか?
例えば『ノルウェイの森』だとこんな出だし。


〈僕は37歳で、そのときボーイング747のシートに座っていた。その巨大な飛行機はぶ厚い雨雲をくぐり抜けて下降し、ハンブルク空港に着陸しようとしているところだった。〉


○お母さんの言葉使いがリアル:
〈今度は、もっと仲のいいお友だちを呼んでいらっしゃい〉
→アッパークラスなお母さんの発言だよなー。良いとこの子はこんなふうに注意されるのかー。中学受験の話も出てくる。


○買い物の描写:
〈おじいさんが買うものは、たいがい決まっている。お弁当、パン、バナナ、パックに入ったお漬物、イワシの缶詰、インスタントの味噌汁、カップラーメン。 〉
→ここでも、漬物に小学生が「お」をつけている。小学生が〈お漬物〉。育ちが良いな。
それはともかく、おじいさんのわびしさを想像してしまった。


○小学生の頃に読んでいたかった一文:
〈前、だれかが言ってたんだけど、好きな女の子の顔はなかなかおぼえられないもんなんだって〉
→なんで読みたいかを説明すると長く長くなる!(笑


◎この小説のハイライトだと思った箇所トップ3
○その1:
〈おとうさんをりんごみたいにふたつに割ってしまうこともできないし、うちにはおとうさんがいないからおじいさんがひとりだから、だからおじいさんがうちのおとうさんになるってわけにもいかない。〉
→子どもってこういうことを考えそう……。


○その2:
〈人の人生に猿芝居を持ちこむなってことだ〉
やってはいけないことを、こういった形で大人が教えるのはこの小説の好きなところ。子供たちにとっては、成長するために必要な間違いかもしれないなと思える。


○その3:
〈ずっと昔、ぼくがまだ小さい頃、死ぬ、というのは息をしなくなるということだと教えてくれたおじさんがいた。そして長い間、ぼくはそうだと思っていた。でも、それは違う。だって生きているのは、息をしているってことじゃない。それは絶対に、違うはずだ。 〉
〈死んでもいい、と思えるほどの何かを、いつかぼくはできるのだろうか。たとえやりとげることはできなくても、そんな何かを見つけたいとぼくは思った。そうでなくちゃ、なんのために生きてるんだ。〉
→説教くさい気もするが、子供の言葉として聞くと受け入れられる。