『裏本時代』本橋信宏

「ああ、おとうさん? 草野でございます、お元気ですか? 突然のわがままですが聞いていただけますか?
いやちょっとですね、『スクランブル』の真ん中の四色のニページ差し替えてもらいたいんです。
いや、そうおっしゃらないで、たしかにご無理はわかっております、いつもおとうさんには無理ばかり言ってご迷惑をおかけしていますからね、
またわたくしのわがままだと思ってお許しください、そうですか、モノクロならなんとか間に合いそうですか、
じゃ真ん中のページはモノクロで今回は差し替えます、いやあ、おとうさん、またうちの新作を刷ってもらうんですから、おからだ大事にしてくださいね、
心配なんです、おとうさん、お酒もほどほどにしてくださいね、そうですか、飲んでないんですね、安心しました」



「そのモデルにあなたたちが選ばれたんですね、それだけ光る何かがあなたたちにあるからなんです、自信を持ってください」


→応酬話法の一例。このほかにも、裏本への出演に難色を示す女の子に対する、唖然とするような説得シーンがある。
ちなみに応酬話法は以下のようなもの。


「そうですねえ、客の理論や価値観ではなくこちら側の理論と価値観に相手を引きこむことでしょうね。
もっと具体的に言えば商品を買わせるためには相手の存在価値を刺激してあげることです、
主婦であれ大学生であれサラリーマンであれ板前であれその人の存在価値を認めて褒め上げるんです、
そしてこの商品を手にすることでさらにあなたの存在価値が高まるということをしゃべるわけです」


「今相手は何を思っているのか、どうやったら目の前の人間を説得できるのかなんていつも考えていましたからね。
それが後々役に立ったのでしょう、」